取るに足らない大事なこと

家から駅までの途中にある保育園。
園の入り口から少し離れた場所に立っている警備員は、前を通りすぎる人たちに必ず挨拶をする。

ほとんどのひとが、挨拶を返さない。
挨拶されたことにびっくりして、咄嗟に返答が「できない」というのが近い気がするが。

見知らぬひとに突然挨拶されると、びっくりするというのは日本人特有なのか。
というのは、最初挨拶を返せなかった自分に対する言い訳だ。

どのくらいの人が挨拶を返すのかはわからないけど、それでも警備員は挨拶をする。

事件の容疑者が住んでいた近隣の聞き込みでは、
「挨拶もしないような人でしたよ」とか
「昔は元気に挨拶する元気な子でね」という取材の様子がよく流れる。

挨拶をするかしないかということが、その人を判断するうえで
あるひとつの基準になるのかもしれない。
だとしたら、地域に根付く保育園の印象としては好印象だし、
警備員は気持ちの良いいい人だと思った。

前に働いていた職場で驚いたことは、出社をしてもほとんどの人が挨拶をしないこと。
朝はしれっとデスクに座り、夕方になるといつの間にかいなくなっている。

会社の集まりで子供を連れてきたひとりは、
子どもに「ほら、ちゃんとご挨拶して」と言ってまわるのだった。
なんとも不思議な気持ちであった。

外国語を覚えるとき、その国の「こんにちは」や「ありがとう」を最初に習得するように、
すぐにコミュニケーションが取れる方法だし、
挨拶は人とひとが心地よく関わり合う言葉なのだと思う。

話しは少し変わるけど
この間、上司に叱られる部下を見た。

上司は声を荒げるでも、高圧的にでもなく「指示を出したことをやっていたか」と部下に問う。

「自分の仕事じゃないと思ってて」「認識のちがいですかね」と、部下はつらつらと並べる。

何度かのラリーがあった後
部下は「俺の言ってることも一理あると思いませんか」と上司に言い放った。

それでも上司は声を荒げず静かに
「君はもうこのプロジェクトをやらなくていいよ」と呆れたように言うと
「え…、っと。すみませんでした」と蚊の鳴くような声でそう言った。

上司は、自分の知りたかったこと(任務を全うしたか)を知ることができない
不毛な時間だったであろう。

それはそれは、ツッコミどころ満載で。
まず、
「出された指示をやったの?やってないの?」
結論をすぐに言わない。
結果彼は、やっていなかったわけだけど、
これに対しての言葉(謝罪)がない。

隣のテーブルの会話を勝手に聞いて、勝手に言わせてもらうなら
(何度も本人に言ってしまいそうだったが)

まず結論を。
そして謝罪を。
君の話しはそこからだよ。

「この人、仕事できないだろな」
心の中のイライラを、お茶を飲んで沈めた。

挨拶が、人とひとが心地よく関わり合うコトバだとしたら、
感謝や謝罪の一言だって同じである。

その人を判断をする、一つの基準になってしまうほど簡単で、
大事なことなのかもしれない。

翌朝、私は警備員に「おはようございます」と言われるより先に挨拶をした。

なんとも気持ちの良い朝だった。

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